大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和32年(う)784号 判決

控訴人 原審弁護人 松原正交

被告人 株式会社 峰鶴 代表者清算人 木村喜多

検察官 近藤忠雄

主文

本件控訴を棄却する。

理由

論旨第一点、

本件記録によれば、被告会社は昭和三〇年一一月二一日解散の決議を為して同年一二月九日その旨の登記を為し次で、昭和三一年六月三〇日清算を結了して同年七月九日その旨の登記を為したものであるところ、本件公訴が提起されたのはその後の昭和三一年七月一〇日であることはまことに所論のとおりである。

しかし乍らなお本件記録によれば、被告会社が清算結了の手続を為す前である昭和三一年六月一一日已に被告会社は検察官から本件たばこ専売法違反被疑事件で、略式手続告知の手続を受けていることが認められるのである。

しからば、被告会社は当然右被疑事件で略式命令を請求する公訴の提起のあることを知つていたものであるから、この為に被告会社は清算結了手続を為すべからざるものであつたのである。

しかるにこれを知り乍ら為した被告会社の清算結了手続は本件被告事件に関する限りにおいては無効のものというべく、被告会社は今なお清算存続中のものと認めなければならないのである。

よつて本件公訴は存在せざるに至つた法人を起訴したものでなく従つて原判決が被告会社はなお存続するものと認めて罰金刑を科したのは正当である。

原判決には所論の如く消滅した法人を処罰したという違法は存しない。論旨は理由がない。

(その余の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 久礼田益喜 判事 武田軍治 判事 石井文治)

弁護人松原正交の控訴趣意

第一点本件はもと被告会社の使用人木村喜栄の犯罪行為について其の使用人たる被告会社に責任を追及せられたる事案である。

而して被告会社は既に昭和三十年十一月二十一日解散の決議を為し同年十二月九日其の旨の登記を経、同昭和三十一年六月三十日清算結了し同年七月九日その旨の登記を経たるものなることは記録に添付の会社登記簿謄本の記載に依り明らかである。故に被告会社は昭和三十一年六月三十日清算結了によつて名実共に消滅に帰したるものと云わねばならぬ。而して被告会社の解散に到つた理由は国税の急納其の他債務超過の為め維持経営不可能となつた為であつたところ右解散決議の当時に於ては被告会社は本件起訴の事実を知らなかつた(本件の告発は昭和三十一年三月五日)ものであるから本件起訴の結果を恐れて解散を決議したのではなく全く前叙債務超過に因れるものであつたから前記解散から清算結了迄の間に起訴せられたものであれば止むを得ないが既に清算結了後に為された本件起訴は恰も死者を被告人とすると同様起訴の要件を欠き公訴の効力を生じないものと云わねばならぬ。加之本件起訴の結果生ずる科刑権は財産上の権利ではなく国家の公権であつて被告会社の債権債務を清算すべき事項に包含せらるるものでないから本件第一審判決の云う「起訴の結果を予見して之が結末をつけなければ実質上の清算結了しない」と云うことは首肯できぬ。

(その他の控訴理由は省略する。)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例